情報ボランティア障害者支援の会

Disabled Support Society

障害のある方へのサポート

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活動報告


“未来型福祉のかたち” 第34

情報のバリアフリーに向けて
 −「障害のある方のIT・パソコン講習会」の開催を通じて−
   情報ボランティアの会(八王子)・障碍者支援部会*

  1. 1.はじめに
    IT・パソコンは、今や私たちの日常生活のなかで欠かせないものになりつつある。とくに障害を持つ人がインターネットやメールを使用することで受ける恩恵はかなり大きなものである。しかし障害を持つ人がパソコンを使用するには、障害に応じてさまざまな「操作支援」が必要なため、パソコンへの入り口の「壁」は決して低いものではない。問題は、誰がどのようにしてこの「壁」を低くするか、である。
    情報ボランティアの会(八王子)(以下IVH)では、二〇〇二年九月から十一月にかけて、八王子市から委託を受け、「障害のある方のIT・パソコン講習会」の企画・運営を行った。障害のある人を対象とするパソコンの支援はすでに各地でいろいろな実績が積まれているが、ボランティア団体が中心となり、自治体ならびに他の福祉関係の団体との協力のもと、さまざまな障害に応じたIT・パソコン講習会を開催したという事例は必ずしも多くはない。以下今回の講習会の紹介を通じて、障害を持つ人とIT・パソコンとの関係、さらにはその支援など「情報のバリアフリー」について考えてみたい。
    *ここでは、IVHの「障碍者支援部会」は「碍」の字を、その他の場合には「害」の字を使用する
  2. 講習会に向けて
    1. 情報ボランティアの会(八王子)について
      IVHは市民の情報化支援を目的に一九九七年十月に設立されたボランティア団体である。設立してからしばらくの間は一〇名ほどの会員によって、パソコン・インターネットに関する「市民講座」や「何でも相談会」、メーリング・リストを利用したサポート等の活動を行っていた。その後二〇〇〇年十二月に会の活動が新聞に紹介されたのち会員数が急増し、それにともない活動の幅も広がった。とりわけ八王子市との協力が進み、二〇〇一年五月から翌年三月まで「IT講習会受講者のための相談コーナー」(八王子市主催/IVH主管)を開設した。これは二〇〇二年四月より「市民のためのパソコンとインターネット無料相談コーナー」として市より委託を受け継続している。また二〇〇二年三月には、中央公民館が主催したボランティア講座「障害を持つ人と高齢者のパソコンの利用をお手伝いするボランティア講座」を共催した。その他に市民の情報化をテーマとしたシンポジウムを独自に開催するなど、現在も七〇名ほどの会員が多彩な活動に参加している。
    2. 講習会実施までの経過
      今回の講習会の企画は二〇〇二年三月に八王子市健康福祉部障害者福祉課からIVHに簡単な話があり、六月にIVHの障害者支援部会が障害者福祉課の担当者から説明を受けたことにはじまる。IVHではかねてから懸案であった障害を持つ人に対する支援を本格化するために、四月に障碍者支援部会を立ち上げたばかりであった。部会ではこのような大きな企画を実施するとは考えていなかったが、以前から障害者の支援に力を入れていた会員や、二〇〇一年度に実施されたIT講習会のなかで開催された視覚障害を持つ人を対象とした講習会に携わった会員がいたこともあり、部会のなかに「IT障碍者向け講習会を成功させよう!プロジェクトチーム」を作り、今回の講習会を受託した。
      当初、障害者福祉課からは、実施期間、会場(市内三ヶ所の公民館)、コース数、一コースあたり五、六名の受講者数が企と十二時間の講習時間といった全体の大枠が示されたのみで、実際の講習会の具体的な内容についてはIVH画することになった。以後プロジェクトチームは、障害者福祉課と協議を進める一方で、六月の中旬からほぼ毎週一回、二時間のミーティングを開き、各講座の内容を順次決めていった。またそれぞれの会場で講座がスタートする前に、今回の講習会で使用するアプリケーション・ソフトのインストールを行った。さらに八月の下旬に二回にわたり、アシスタントの事前講習会を行った。
    3. 実施体制
      今回の講習会の目標は、Windows Meがインストールされているパソコンを使用し、パソコンの初心者を対象に、電源の入れ方からメールのやり取り、インターネットの使い方までを一通り体験してもらい、パソコンに慣れてもらうことであった。そのために障害の種類や程度に応じて、入力などの操作を補助するためのアプリケーション・ソフトや装置を使用し、受講者にできるだけパソコンを使いやすくなるように試みた。また受講者が作成した絵や年賀状などをプリントアウトし、パソコンの楽しさを実感してもらうようにもした。
      実際のコースでは、講師一名、パソコンのオペレーター一名、さらに受講者一名にアシスタント一名がつく体制をとった。その他に機材のトラブルなどに備え、一、二名の予備のメンバーを配置した。講師をふくめこれらの役割は、今回のプロジェクトに参加したIVHの会員、ならびにさまざまなメーリング・リストでの呼びかけに応募した会員以外の一般市民が担当した。またテキストは、それぞれのコースの講師が中心となり、コースごとに独自に作成をした。さらに聴覚障害の方に向けたコースでは、手話通訳、要約筆記を行い、それぞれ専門の団体に協力を仰いだ。また各コースには障害者福祉課の職員が一名ついた。
  3. 講座内容
    以下今回実施した四つのコースの講座内容について簡単にみることにしたい。なおそれぞれの講座では、WordやOutlook Expressなど一般的に利用されているアプリケーション・ソフト以外にも、障害に応じた特別なアプリケーション・ソフトを使用した。
    1. 知的障害のある方に向けた講座(三会場 五コース) 特別なアプリケーション・ソフト:ペタペタおえかき、らくらくメール、
      ひらがなナビィ
      この講座では、コースごとに、受講者ごとに障害の程度がさまざまであり、アシスタントによる個別対応が中心になることもあった。また会場の設備のために、プロジェクターでパソコンの画面を写し出す際に全体を非常に暗くしなければならない部屋があり、講座の雰囲気にも影響を与えてしまった。またあらかじめ予定していた講座内容より進んでしまったコースでは、カレンダーや年賀状の作成を試みたが、これは受講者の評判も良かった。
    2. 視覚障害のある方に向けた講座(一会場、三コース、このうち一コースは六点(点字)入力対応)
      特別なアプリケーション・ソフト:PC-Talker、MMメール、ホームページ・リーダー
      この講座では、視覚障害を持つIVHの会員二名が講師を担当した。みずからの障害の経験にもとづいた講師の指導は説得力に富んだものであった。また弱視の受講者は、Windowsの「拡大鏡」の機能を使用した。音声ソフトとショートカット・キーを使用することにより、コースの終わる頃にはパソコンをかなり使いこなせるようになった受講者もいた。なお六点(点字)入力については、アシスタントが詳入力方法の詳細な点が分からず、受講者に不便をかけてしまうこともあった。
    3. 聴覚障害のある方に向けた講座(二会場、二コース)
      特別なアプリケーション・ソフト:なし
      この講座では、一コースはIVHの会員が講師を担当し、もう一コースは会員外でみずから聴覚障害を持つ方が講師を担当した。前者のコースでは、講師の話を要約筆記と手話通訳によって受講者に伝え、後者のコースでは、講師の手話による話の内容を手話通訳によってアシスタントに伝えるという方法をとった。しかし当初は、受講者とアシスタントとのコミュニケーションに苦労した面もあった。また後者のコースでは、講師の経験にもとづき、漢字にルビをふる練習が講座に取り入れられるなど、私たちの間でも参考になることが多かった。
    4. 上肢障害のある方に向けた講座(二会場、二コース)
      特別なアプリケーション・ソフト:オペレートナビEX   
      操作支援機器:らくらくマウスU 
      この講座でもっとも重要なことは、受講者の方の障害の種類や程度に応じた形で、Windowsの「ユーザー補助」のカスタマイズ、アプリケーション・ソフトや操作支援機器などの設定・設置によって、受講者にとって使いやすいパソコン環境を整えることであった。一般にはそれほど知られてはいないが、Windowsの「コントロールパネル」の中にある「ユーザー補助」の機能を使用することにより、障害を持つ人の入力はかなり容易になる。また通常のマウスの代わりにトラックボールも使用した。このような形で環境を整えると、多くの受講者はゆっくりとしたペースではあったが、パソコンを使いこなすことができるようになった。
    最終的に今回の講座に直接かかわった市民の数は、実人数ではIVH会員二五名、会員以外の市民二七名の計五二名(男性二二名、女性三〇名)、のべ人数ではIVH会員四〇〇名、会員以外の市民一〇五名の計五〇五名(男性二七七名、女性二二八名)にのぼった。
  4. 成果と今後の課題 
    今回の講習会では受講者の評判が良く、パソコンに慣れてもらうという当初の目標を達成できた。とくにインターネットやメールを使用することにより、情報収集やコミュニケーションが飛躍的に容易になることを実感してもらえた。また受講者とアシスタントの一対一の対応、個々の障害に応じたWindowsの「ユーザー補助」のカスタマイズ、アプリケーション・ソフトや操作支援機器の使用といったように、それぞれひとりひとりの受講者に対して適切で丁寧な対応ができたのは、まさにボランティア団体の持つ「柔軟さ」のためであった。
    同時に今回の講習会で大きな収穫は、多くのIVHの会員をはじめ、今まで障害を持つ人と接する経験なかった人たちが障害を持つ人たちと直接接したことであった。障害を持つ人に対して支援を試みようという人は多い。しかし今回は「パソコン」の支援という少し異なった角度からのアプローチによって、これまで障害者支援にそれほど関心のなかった人たちも、障害を持つ人と接し、支援を行った。このことによって体感的に得られた「財産」は貴重なものである。これはIVHが障害を持つ人ばかりでなく、多くの人々を対象とした支援活動を行ってきたという特徴が大きく生きた点であった。
    また今回の講習会では八王子市障害者福祉課とIVHがこの講習会に向け「協働」することができた。このような「協働」が今回成功した理由として、IVHが従来の活動の中で市民の「専門性」を結集させ、講習会の企画・運営を行うだけの技量が十分に備わっていた点があげられる。しかし同時に障害者福祉課の担当者がIVHのミーティングにも何回か顔を出すなど、一緒に講習会を作りあげていこうという強い熱意があったことも大きな要因であった。今日「協働」という言葉はよく使われるが、その成功のためには、自治体職員と市民とが信頼関係を築き、自治体と市民、市民団体のそれぞれの役割を十分に生かすことが重要であると考えられる。このような中でこそ市民が公共サービスを担うことが可能になるだろう。
    もちろん今回の講習会でも今後の課題とすべき点は数多くあった。講座自体では、講師とアシスタント、さらには要約筆記、手話通訳の方と事前の打ち合わせが十分でなかった面もあった。またボランティア団体の柔軟性という特徴は多くの面で役立ったが、反面今回の講習会が「市の委託事業」であるという意識が必ずしも関係者全員に行き渡っていなかったことは、反省すべき点であった。しかし何よりも重要なことは、今回の受講者は、八王子市に在住する障害を持つ人たちのほんの一部の人でしかなかったということである。今後は個別サポートなど、IVHも市や関係する団体等と協力しながら、障害を持つ人たちへの支援をより充実していくつもりでいる。
    さらに長期的な課題として、障害を持つ人がパソコンを容易に使用するためには、パソコン販売店の理解を進めていく必要がある。今回の講習会でも、販売店に講習会の見学などのアプローチを試みたものの、上手くいかなかった。障害を持つ人もひとりの「顧客」であり、障害に応じたアプリケーション・ソフトや操作支援機器などの使用により、パソコンを使いこなせることは可能なのである。もちろんさまざまな形での支援は必要であるが、障害を持つ人も販売店もひとつの同じ地域のなかで生きているのである。
    私たちは五体満足だと思っていても、事故や病気により、いつ障害を持つことになるかわからない。また一般に年を重ねるとともに、目や耳などが不自由になっていく。そういう意味で「健常者」にとっても「障害」は決して「特別な話」ではない。また障害を持つ人に「やさしい」情報化は、障害を持っていない人にとっても「やさしい」はずだ。「壁」は誰にとっても低くなければならない。「情報のバリアフリー」や「情報ユニバーサルデザイン」といった言葉は、「情報弱者」のための言葉ではなく、それぞれひとりひとりのための言葉であるはずだ。
*(参考)今回の講習会で使用したアプリケーション・ソフト、操作支援機器
ペタペタおえかき  篠塚貴志氏(シェアウェア)「キッズ学習ソフト」  http://www.venus.dti.ne.jp/~sinoduka/

らくらくメール    富士通       http://software.fujitsu.com/jp/rakumail/

ひらがなナビィ   富士通ラーニングメディア  http://www.knowledgewing.com/kids/

PC−Talker     高知システム開発      http://aok-net.com/index.htm

MMメール     宮崎嘉明氏(シェアウェア)「Miyamiya」  http://www2.saganet.ne.jp/miyamiya

ホームページ・リーダー 日本IBM
http://www-6.ibm.com/jp/accessibility/soft/hpr.html

オペレートナビEX   NEC  http://121ware.com/product/software/openavi_ex/index2.html

らくらくマウスU NPO法人「こことステップ」 http://www.kktstep.org/index.html

*情報ボランティアの会(八王子)のWebサイト  http://www.ivh-jp.org/
(執筆代表:近藤敦)